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柴とはそこいらにいる柴犬、または八雲紫を揶揄して使われた言葉である。 そもそもの発端は霖之助スレ15の 860が 「紫」 の字を打とうとして今まで 「し」 で変換していたのであろう、間違って 「柴」 と打ってしまい、字が似ていることもあり、住民のツボに嵌ったのが由来である。 その後しばらく八雲紫=柴のような用法がなされ、次第に業を煮やした住民が是非を問い出し、問題は収束する。 以後はたまに香霖堂の近くをうろつく犬程度の使い方になったが、反射的に八雲紫を思い浮かべる人もいるため無闇に使うのはあまりよくない。 そもそも霖之助スレ住民は長らく二次設定に頭を悩まされており、スレ内でも度々 「霖之助さえまともなら他のキャラはどうでもいいのか」と問題になる。 とはいえ面白いことが好きな人間なのだから、このような問題が発生するのは完全には防ぎようがない。 予防も大事だが、真に大事なのは二次設定が発生したときにどう対処するかである。 花は半開を看、酒は微酔に飲む。人生に必要なことだと思いませんか?
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ご覧になりたいスレをお選びください。 俺×キャラ 霖之助受け:1スレ目
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《森近 霖之助》 No.1490 Character <第十六弾> GRAZE(1)/NODE(2)/COST(1) 種族:人間/妖怪 (自分ターン)(0): 〔あなた〕はカードの種類を1つ宣言し、〔あなたのデッキの上のカード1枚〕を公開する。公開したカードの種類があなたの宣言したカードの種類と同じだった場合、公開したカードを手札に加える。異なっていた場合、公開したカードを破棄する。この効果は1ターンに一度、メンテナンスフェイズにしか使用できない。 攻撃力(3)/耐久力(2) 「まだ、開店まで随分と時間が有るんだが…いったい何の用だい?」 Illustration:鳥居すみ コメント 香霖堂の店主。 今回も後衛から戦線をサポートすることに努めている。 長々と書いてあるが、要はデッキトップの種類を当てればそのまま手札に加えられる効果。 このゲームのカードはキャラクターカード、スペルカード、コマンドカードの三種類に区分されているので、ただ使用するだけでは1/3の確率でしか手札を増やせない。 おまけに単体での戦闘力は著しく低く、とどめと言わんばかりにルーミア/14弾の圏内なので、何の策もなく漫然と投入しただけではデッキ枠の圧迫にしかならない。 そのため、確実に効果を活かせるようなデッキに投入して積極的にアドバンテージを稼ぐ必要があるだろう。 分かりやすい策としては逆転「リバースヒエラルキー」デッキのような特定の種類を排するデッキに投入してヒット率を水増しすること。 いっそのこと明羅/9弾や河城 にとり/11弾と合わせてキャラクター以外のカードを最小限に抑えたデッキを構築してもいいかもしれない。 自身の店の商品である河童の五色甲羅との相性は抜群、宣言を行う前にデッキの上のカードを操作できるので最低でも1枚は手札に加えられる上に運がよければ2枚まで追加で手札に加わる可能性がある。(QA-320) また、宏観前兆のようなデッキトップを調節できるカードと組み合わせて確実に効果をヒットさせていくのも有効である。 この場合、見たカードの中に小野塚 小町/11弾のように冥界にいてほしいカードが混ざっていた場合、あえて効果を外して冥界を肥やしていくという荒業もある。 上手く使えばノーコストでカードを引くことができるが、最大の敵は効果発動までのタイムラグ。 コマンドを駆使して相手ターンを生き残れるようにしたいが、デッキ構築次第ではそれすらままならないのが悩ましいところ。 また、引くカードを一度相手に見せるという性質上相手に対策を取られやすく、姫海棠 はたて/PRのようなカードに弱い点にも気をつけた方がいいだろう。 関連 第十六弾 森近 霖之助/1弾 森近 霖之助/7弾 森近 霖之助/12弾
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前の話へ 次の話へ あらすじ 無縁塚で拾ったブルマを運動量の多そうな美鈴に勧めた霖之助。 穿いてみた美鈴は気に入るあまりに服をたくし上げ、霖之助に履いてるブルマを見せる。 目が離せない霖之助(赤面)を見て冷静になった美鈴、真っ赤になって硬直。 「あぅぅぅぅぅぅ」 あの後なんとか意識を取り戻し、とりあえず穿いているブルマの代金だけは払って紅魔館の自室に戻った美鈴。 思い出すだけでも顔から火が出そうだ。調子に乗るとろくなことをしない自分が恨めしい。 はしたないと思われただろうか。それとも頭が弱い子だと思われただろうか。 それともその両方か。 考えれば考えるほど恥ずかしくて消えてしまいたくなる。 無論、どんなに祈ったところで消えることなどできず、ひたすら悶える美鈴だった。 「はぁううううううううううううう~~~~」 「美鈴の様子がおかしい?」 数日後、紅魔館の主レミリア=スカーレットは、午後の紅茶を嗜みつつメイド長の十六夜咲夜に聞き返した。 「ええ、どうにも門番の仕事に身が入っていないようで」 「それはいつものことでしょう」 「それはそうなんですが、いつもとサボり方が違うと言いましょうか。 いつもは大概昼寝ばかりしているのですが、最近はボーっと宙を眺めては真っ赤になってうつむいたり、 ぶんぶんと頭を振ったりと。 しかも5分おきにです」 「……なにか変わったことはなかったの? 変なものを拾って食べたとか」 「そうですね……強いて言えば、様子がおかしくなったのはこの前の休日からでしょうか。 メイド妖精が赤い顔をして帰宅する美鈴をみたとか」 「となるとその日に出かけた場所が怪しいわね……。咲夜は聞いてないの?」 「はい、少々お待ちください」 頬に手を当て、考え込む咲夜。 思いついた! という顔をしたのも束の間、やけに神妙な面持ちで告げる。 「確か……香霖堂、だったかと……」 「「……」」 「あの店主となにかあった、そういうこと?」 「信じがたいことですが他に考えられません。その前日は休日がもらえたと喜んでいましたから」 「これは放っておくわけには行かないわね」 「ええ、根掘り葉掘り聞かせてもらいませんと」 2人の視線の先には、帽子を顔に当ててうずくまる美鈴の姿があった。 ちなみに2人からは見えないが、やはりその顔は真っ赤であったという。 その夜、美鈴はレミリアの部屋に呼び出されていた。傍らには咲夜の姿もある。 「美鈴。単刀直入に聞くわ。香霖堂の店主と何があったの?」 「ふぇっ!?」 いきなりそう切り出されてあわてる美鈴。しつこいようだがその顔は真っ赤である。 ――カマをかけたつもりだったが大当たりか―― アイコンタクトで意思の疎通を完了したレミリアと咲夜は、さらに畳み掛けに入る。 「図星ね。どうも様子がおかしいと思ったら。 で、何があったのか聞かせてもらえるわよね?」 言えるわけがない。 「い、言えません!」 「美鈴。あなたの主は誰? このレミリア=スカーレットが教えなさいと言っているのよ?」 「そ、それでもこればっかりは言えないんですっ!」 ――これはただ事ではないようね―― ――ええ、この子がここまで言うなら力づくでは無理でしょう―― ――ならばあの店主ね―― ――賢明です、お嬢様―― 再び交わされるアイコンタクト。 「そう。そこまで言うならもう聞かないわ。下がっていいわよ」 「え……? あ、はい。わかりました。失礼します」 助かった、という心境を隠しもせず、美鈴は部屋に戻っていった。 「……ああ、もうこんな時間か……」 一方の霖之助も、いつもと様子が違う自分を自覚していた。 何せいくら字を追っても内容が頭に入ってこない。 気がつけばブルマを履いた美鈴の下半身が頭をちらつき、必死に振り払う。 そんな堂々巡りがここ数日続いていた。 そしてまたいつものように眠れぬ夜を迎えようとする霖之助だったが、 バゴーン! 「店主はどこ!? うちの美鈴に何をやらかしてくれたのかきっちり話してもらうわよ!!」 今日はそれすらもできなさそうだ。 「……というわけで、別に君たちが考えてるようなことは何もしていないよ」 何とか事情を説明し終わり、息を吐く霖之助。 「あの子らしいと言うかなんと言うか……」 こめかみを押さえてため息をつくのは紅魔館の主、レミリア=スカーレット。 確かにそんなことで悩んでましたなどと言えるわけがない。主に情けないとかそういう理由で。 一方霖之助はレミリアがあけた大穴を見て赤字を計算しつつ、美鈴をフォローする。 「まあそういうわけだから、この件の事情に関しては知らぬ存ぜぬを通してあげてくれないか? いくら穿いてるブルマが気に入ったからとはいえ、 一応は男性の僕に服をたくし上げて下半身を見せるなんてことをしたんだ。 君たちに知られたとわかったら、恥ずかしくてショック死してしまうかもしれない」 「心配しなくても言わないわよ。こっちもこんなことで真面目に説教なんてしたくないわ。 咲夜には私から上手く言っておくから」 「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ。お礼にこの穴はなかったことにしておこう」 内心修理代を請求されるのではないかと思っていたレミリアはその言葉に安堵する。 それにしてもなぜこの店主は美鈴にここまでするのだろうか。 自分が顛末を知ったことなど、美鈴に言おうが言うまいがこの店主には何の関係もない。 それなのに頭を下げて頼んだ上、店に開いた穴のことまでなかったことにするなどと。 「あなた……もしかして美鈴のことが好きなの?」 「は!?」 なぜそうなるのかわからない霖之助は、予想外の発言に取り乱してしまう。 レミリアからすれば、まさに図星を衝かれたようにしか見えないというのに、だ。 口の端を吊り上げてニヤニヤと笑うレミリア。 「ふ~ん。女に興味なんてないような顔してねえ? まああの子は気立ても顔も良いし、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでるから無理もないけど。 それともそのブルマとやらが気に入ったのかしら?」 いかん、このままではブルマ好きという噂を立てられかねない。 それの何が悪いのかはわからないが、理性ではなく本能が危険を訴えてくる。 それを感じた霖之助は、何とか目の前の悪乗りしかかっている少女をなだめようとする。 「……彼女が魅力的だということは認めるが、僕の発言はあくまで親切心と責任感から来るものだ。 そもそも、僕があんなものを勧めなければこんな事態にはならなかったわけだしね。 あと、人が特殊な性癖を持っているかのような言動は勘弁してくれ」 「つまらないわね……。まあ良いけど。少なくとも美鈴が魅力的とは認めてるわけだし?」 さらに霖之助を弄ろうとするレミリア。 (く、いらない一言だったか) もっと咄嗟に上手く取り繕う話術を磨こう。 霖之助が随分久しぶりに向上心を確かにした瞬間だった。 「さて、いつまでもこうしてたって仕方ないわね。 事情は良くわかったけど、とにかくアレじゃ門番の仕事に支障が出てしょうがないわ。 今度美鈴をよこすから、なんとか説得してあげてくれないかしら?」 正直こんなことまで頼むのは心苦しいが、自分や咲夜では事情を知らないことになっているので強気に出れない。 無理なら仕方ない、とダメ元で聞いたレミリアだったが、霖之助の返事は意外にも肯定だった。 「僕が何とかできるのならやぶさかじゃないな。わかった、引き受けよう」 「すまないわね。迷惑をかけっぱなしで」 「君たちが説得するわけにもいかないだろうしね……。 僕としても、彼女とは良好な関係を維持していきたいと思っている。 まあ貸し1つと言うことで手を打っておくよ」 「それならその穴を直してもいいようなものだけど?」 「その提案に心惹かれるものがないわけじゃないが、この穴の修理は僕でもできる。 それなら、僕の手に余る事態が起こったときに君たちの手を借りる権利を持っておいたほうが有意義というものさ」 そんなこんなで話はまとまり、レミリアは自分の館に帰って行った。 「そうでしたか…… 全くあの子らしいと言うかなんと言うか……」 やはり主従だけあって考えることは一緒のようだ。 「まあそういうわけだから、今度の休みに美鈴を香霖堂へやることにしたわ。 私たちが何を言ってもダメだろうしね。それに、あの店主も美鈴を憎からず思ってるみたいだし」 はて? このお方は美鈴に手を出された(かも知れない)のが気に食わなくて香霖堂に行ったんじゃなかったか? そう思いつつ釘をさしておく咲夜。 「しかし、それであの店主と美鈴が上手くいったら、それこそ門番に身が入らなくなるのでは?」 「んー、まあ良いじゃない。人の恋愛ほど傍から見てて面白いものはないし」 悪戯っぽく笑うレミリアに、ああ、これは何を言っても無駄なパターンかと早々に白旗を振ることにした咲夜。 今後の展開を考えると、内心でため息が漏れるのだった。 前の話へ 次の話へ
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※慧音の努力により人里が人外に寛容になったのは霖之助が店を構えた後という設定です。 ※霖之助が修行しているのは香霖堂を立てる数年前からであり、店の人間以外は彼が半妖とは知りません。 以上の設定を踏まえてご覧ください。 「……糸も布も残り少ないわね……また買いに行かないと……」 七色の人形遣い、アリス=マーガトロイドの艶やかな口から漏れる声。 本来ならば同性であっても聞き惚れるような美しく儚いその声も、倦怠の色が混ざっては魅力半減である。 これは、森近霖之助が霧雨の店で修行していたころのお話。 魔理沙や霊夢が、まだ無邪気に遊んでいたころのお話。 【彼が気付かせてくれたもの】 自分の生活に問題などない。 アリス=マーガトロイドはそう自覚しているつもりだ。 目標である完全自立人形の完成を目指して、研究と研鑽を重ねる日々。 そのことに全く問題はない……が、人形を作る以上、材料をどこかで手に入れる必要がある。 できれば家に篭っていたいのだが、自分で布や糸まで作っていては時間の無駄だし、そこまでの技術もない。 そういった理由で、たまに人里へ買出しに行くことだけは楽しいこととは言えなかった。 傍らに人形を浮かべ、人里で必要なものを調達するアリス。 すでに何度も訪れているため、商談はスムーズに進んでいく。 そう、商談"は"。 「……」 道を歩くとき、商品を受け取るとき、嫌が応にも感じる。 道行く人間たちの、店員たちの冷たい視線。ひそひそとささやく声。 歓迎されていないことを承知で来る自分も自分だが、いい加減同じことばかりして飽きないのだろうか。 刺さる視線に負けない冷ややかな心で、アリスは淡々と材料を買い込んでいく。 ……今度はもっと人形をつれてきて、大量に買い込むとしよう。 別に人間にどう思われようが知ったことではないが、好き好んで味わうような雰囲気でもない。 実際の疲労以上に疲れを感じながら、アリスは家に帰っていった。 ちなみに材料を買う資金は、人形を里の店に卸すことで調達している。 無論、製作者がアリスということは伏せてあり、受け渡しは人の目のないところで行われる。 店の人間も、里の人間である以上アリスを快く思ってはいないが、実際人形の出来が良い上に売れ行きも上々。 面構えだけはにこやかなその店員をくだらないと思いつつ、利害の一致によりアリスの売買は続いている。 次に里を訪れるのは何ヵ月後か。計算している自分が面白くない。 まあ、考えてもその時が先に伸びるわけではないか。 そう自分に言い聞かせ、アリスは人形作りに没頭していった。 祭りの日。 アリスは道端の一角で人形劇を披露する。 まるで生きているような動きに加え、通常ではありえないほど大勢の登場人物。 しかし、文字通り魔法のようなその光景に目を向ける人間はほとんどいない。 まれに目を輝かせる子供がいるにはいるが、そばの大人が諫めるためにすぐどこかへ行ってしまう。 曰く、あれをやっているのは人間ではない。 曰く、あれを見ていたら魂をとられる。 それでなくても、なぜお前なんぞがここにいる、という視線が常について回る。 めでたい祭りに紛れ込んだ異物に一瞬敵意を向け、直後まるでアリスの存在など見えない体を装う人間たち。 ふん、と内心でアリスは鼻を鳴らす。 別に馴れ合いにきているわけじゃない。 一人で家に篭って人形を操るのと、他人の目があるところで人形を操るのとはでやはりどうしても感覚が違う。 だから、これはあくまで自分のため。別にこれをきっかけに人間に近寄ろうとは思わない。 むしろ今はそれでいい。いつか自分を白い目で見ている人間たちが、目を離せなくなるような劇を演じてみせる。 そんなことが幾度か続いたある日。 いい加減いつもの店に行くのが面倒になったアリスは、違う店を探して歩いていた。 すると、一軒の店が目に入る。 『霧雨店』 どうやら生活用品などを売る雑貨屋のようだ。 ちょうどいい、人間の店などどこでも同じだし、ここで買い物を済ませて帰るとしよう。 アリスが店に入ると、眼鏡をかけた銀髪の店員が話しかけてきた。 「いらっしゃいませ。 おや、はじめてのお客さんですね。何をお探しで?」 「布と糸。できれば丈夫なものを」 にこやかな店員とは違い、アリスのほうに愛想良くする理由などない。 そっけなく用件を伝えると、店員は少々お待ちを……と言って引っ込んでいった。 「これでいかがでしょう?」 「……。いただくわ」 品質を確かめ、満足するアリス。 普段使っている店よりは上等なものを扱っているようだ。 「それでは御代を……おや、その人形は……」 「……この子がなにか?」 気付かれたか。顔には出さないが内心で舌打ちするアリス。 どうやら自分の悪名は思っていたより人里に広まっているらしい。 どうせこの店員も手のひらを返したように迷惑そうな態度をとるのだろう。 浮かんでいた人形を、念のために腰元に下げて入店したが、徒労に終わったようだ。 また次の店でも探すかな、と思っていたアリスだったが、 「もしかして、あなたがアリス=マーガトロイドさんですか? いやあ、お会いできて光栄です。 ああ、申し送れましたが、僕は森近霖之助。この店で商売人の修行をしているものです。 それにしても素晴らしい人形だ。お一人で作られているというのは本当ですか? できれば手にとってじっくりと見せていただきたいのですが。 ああ、それに……」 森近霖之助と名乗る店員は、鮮やかに予想を裏切ってくれた。 「僕がなぜアリスさんのことを存じているかというと、気晴らしに向かった人形屋で作品を拝見しまして。 あまりに精巧かつ繊細にできているものですから、そこの店員に製作者について聞いてみたんです。 ところが、その店員が頑として口を割らない。 これは何かあると思って絶対他言しないことを約束した上、袖の下まで使って聞き出してしまいました。 道具はどのようなものを? やはり魔法を使って? それとも純然たる技術の結晶ですか?」 ……何だこいつは。 今の言い方なら自分が魔法使いだということくらい知っているのだろうに。 まあいい。拒絶されてはいないようだし。 むしろ問題はこの口か。 「あの、早く作業に戻りたいのでお勘定を……」 「ああ、これは失礼。ついつい話に夢中になってしまいました」 一応人の話を聞く余裕はあったらしいその店員に代金を支払い、店を出るアリス。 「今度は時間のあるときにいらしてください。是非人形の話を聞かせていただきたい。」 「……そうですね。考えておきます」 前向きな返答に喜ぶ霖之助。 変なやつ。 そう思うアリスだが、不思議と悪い気はしなかった。 人形を評価してもらったからだろうと結論付け、アリスは自宅へと帰っていった。 それから、アリスは霧雨店で買い物をするようになった。 人形の材料だけでなく生活用品まで揃っているため、何件も回る必要がないからだ。 何より、この店の店員は自分を嫌がっている様子がない。 特に森近霖之助と名乗った若い男。 会うたび会うたび人形を褒めちぎり、製作のことについて質問してくる。 挙句の果てに、人形屋の店員は魔法使いが作った人形だからといってあれほどの作品の手入れを嫌がっているが、 そんなことで品物の扱いを決めるとは全く商売人失格だなどと、アリスの味方をするような言動まで平然と吐く。 一度彼の不在時に店を訪れた事もあったが、次に来店したときには『勿体無いことをした』を10秒に1回は言う始末である。 気がつけば、アリスは人里での買い物が重荷ではなくなっていた。 そうなると1度に買い込む量も減り、月に1度ほどの間隔で定期的に店を訪れるようになる。 霖之助と話し込むうち、知らず知らずのうちに笑顔になることもあった。 それを見ていた別の客は、 「いやあ、あの氷みたいに無表情な魔法使いでも、あんなふうに笑うことがあるんですなあ」 と、驚きを隠せず、会う人会う人にその事を語ってまわったと言う。 ようやく、アリスにとって本当に充実した日々が訪れた。 唯一の心掛かりがなくなり、心置きなく人形作りに集中できる。 出来上がった人形を見せると、霖之助をはじめ、霧雨店の面々は手放しで賞賛してくれた。 中でもその店の子供である小さな少女は、毎回目を丸くして人形に見入り、別れ際には何度もいつ来るのかと聞いてくる。 自分を正しく評価してくれる存在がいるだけで、こうも違ってくるものか。 アリスの頑なだった心は、徐々に溶け始めていた。 祭りでの人形劇も、気がつけば足を止めてみている人間がちらほら出始めた。 見ているのは、子供や面白いものに飢えた若者がほとんどだ。 もしかしたら、霖之助が霧雨店を訪れる客に自分のことを語って聞かせたからかもしれない。 そう思うと、なんだか心が温かくなるアリスだった。 優しい微笑を浮かべるアリスが水面下の噂となって、観客にやや男たちが増えもしたが。 しかし、そんな生活も唐突に終わりを告げる。 「出て……いった?」 「ああ、いつか自分の店を持ちたいって言ってたからなあ。 直接あんたに告げられないのが残念だって言ってたぜ。 たしかあいつの店は……あ、ちょっと!」 「っ!」 最期まで話を聞くことができず、アリスは自宅へ向かって飛び出していた。 もう会えなくなったことも、そのことについて何も言ってもらえなかったことも、何もかもが辛かった。 自宅の椅子に座り込み、ぼうっと考えこむアリス。 なぜ自分はここまで取り乱しているのだろうか。 別に彼がいなくなっただけで、かつての生活に戻るだけではないか。 大丈夫。今までそうして生きてきたんだから。 言い聞かせることで胸の痛みは小さくなる。 小さくなりはしても、消えてはくれなかった。 それは、アリスが他者と触れ合うことの楽しさに気付いてしまったから。 気付かせてくれた彼が、なんの断りもなく一方的にその触れ合いを絶ってしまったから。 もう、かつてのように生きていくことはできなかった。 ちくちくちく。 布に糸を通す音が聞こえる。 が、 「……集中できない……」 音の発生源ことアリスは、この1ヶ月というもの人形作りに身が入っていなかった。 人形を作ることで霖之助との繋がりが絶たれたショックを振り切ろうとするのだが、人形を作るということはその完成形をイメージするということ。 イメージするたび浮かんでくるのだ。完成した人形を褒め称える霖之助の姿が。 どこに居るのかわからない以上、彼が褒めてくれることなどありえないというのに。 結局、彼のことを忘れるための人形作りで、自分にとって彼の存在がどれほど大きかったか痛感する破目になる。 心に刺さった針は、いまだに抜けてくれない。 「はぁ……気晴らしに外を歩いてこようかな……」 どの道このまま家に居ても何も変わらない。家に居て何とかなるならこの1ヶ月で何とかなっている。 アリスは珍しく散歩に出ることにした。 しばらく森の中を歩くアリス。 鳥の囀り、木々の葉からこぼれる日の光、清清しい空気。 心の痛みがさらに小さくなっていくのがわかる。小さくなった分鋭くもなったが。 だがまあ、たまにはこういうのも悪くない。 新しい楽しみを見つけた喜びを味わうアリス。 と、ここで1ヶ月前にはなかった物に気がついた。 「なんて読むんだろう……こう……??……どう?」 名前からしてどうやら何かしらの店らしい。 こんな森の入り口に店を立てるなど、どんな変わり者なのだろうか? ……まあどうせ暇だし、冷やかすのもいいか。 なにやら興味を引かれたアリスは、香霖堂と看板のかかった店の戸を開けた。 「いらっしゃい……おや、アリスじゃないか。 折角開店したのに1ヶ月も来ないからどうしたのかと思っていたよ」 「……え、なにこれ」 店の中にいたのは、もう会えないと思っていた男、森近霖之助だった。 店に入ってくるなり疑問の声を上げ、ぽかんとしているアリスを見て、随分表情豊かになったなあなどと考える霖之助。 アリスは2~3回ほど目をパチパチさせると、 「なんで? どうしてこんなところに霖之助さんが?」 と聞いてきた。 霖之助はそれを聞いて、どうやら1ヶ月も訪れなかったのは愛想をつかされたのではないらしい、と内心安堵する。 「ふむ、霧雨の親父さんに聞いていなかったのかい? しっかり伝えてくれるように何度も念を押したんだけどなあ」 「……そういえば最後まで聞かずに出ていったんだったっけ」 「ん? 何か言ったかい?」 「え、う、ううん、なんでもないわ」 「そうかい? まあ折角だし、僕が店を持つに至った経緯を説明しておこうか。 一応これでも、僕は商売人の端くれだ。 いつかは自分の店を持つ。そんな目標を持ってはや幾歳。 霧雨店で修行を積んではいたが、なかなかその機会に恵まれなかった。いや、正確には自分の持ちたい店がわからなか ったんだ。 そもそも僕が店を持ちたいのは、僕の『道具の名前と用途がわかる程度の能力』を生かしたいがため。 ならば普通の店では意味がない。 そんな時、外の世界の道具が流れ着くという無縁塚のことを思い出した。 試しに無縁塚に行ってみればあるわあるわ。見たこともない道具でいっぱいだ! これはこの道具たちを扱えという天からのお達しに違いない。 そう思った僕は、人も妖怪も来れる場所、無縁塚にも近いこの場所で外の商品を扱う、それが僕の使命だと悟ったのさ!」 やたらテンションが高く、なにやら芝居がかった話し方をする霖之助。 もう会えない……とか考えていた自分が情けないやら恥ずかしいやらで、一気に力が抜けるアリス。 「はあ……一体この1ヶ月は何だったのかしら……。まあ、いいか……」 そんなアリスの言葉は当然のように聞いていない霖之助は、ここで常連を1人作っておこうと話しかける。 「そうそう、一応普通生活用品なんかも取り扱っているから、良かったら糸や布などひいきにしてもらえるとありがたいんだ が」 こいつこっちの様子はお構いなしか、と半眼で睨みつつ、アリスはここに来てから抱いていた疑問をぶつける。 「……ええ、まあそれは構わないわよ。人里に下りるより楽だし。 それより、前とかなり話し方が変わってるのはどういうことかしら?」 「ああ、霧雨店では、僕は修行の身だったからね。 お客さんへの対応は霧雨式でやっていたんだ。 しかしここは僕の店だ。よって僕は僕の思うがままに応対させてもらう」 「お客さんとして言わせてもらえば、品揃えが同じでも店員の態度がいい店を選びたいものよ。 と言いたいところだけど……この店と競争する店なんかないわよね……」 「まあそういうわけだ。これからもよろしく頼むよ」 「ああ、それともう1つ。 ここがいくら入り口と言っても魔法の森よ。 人間のあなたにはちょっと危険すぎない?おまけに無縁塚にまで行ってるんでしょ?」 心配してくれるアリスを見て、この子も本当に変わったなあ、と思いつつ霖之助は答える。 おそらく出会ったときのアリスなら、例え目の前で襲われていても素通りだったろうに。 「そう言えば君には言ってなかったかな。 僕は半分妖怪だから、妖怪に襲われることはめったにないよ」 「……ちょっと、何でそんな重大事項教えてくれなかったのよ? それとも霧雨店の人たちに知られたくなかったとか?」 「いや、彼らは皆僕が半妖だということを知っているよ」 「……あ、そう……」 随分懐の深い人間もいたものだ。 それなら魔法使いの自分を嫌がる様子がないのも当然か。 しかし自分は彼のことを何も知らないのだな、といまさらながらに実感するアリス。 まあ自分から人付き合いを遠ざけていたのだ。自業自得というものか。 そんな自分を反省しつつ、アリスは右手を差し出した。 「それじゃあ、今後いろいろとひいきにさせてもらうわ。よろしくね」 「ああ、こちらこそ」 そういえば誰かと握手するなんて初めてかもしれないな、とアリスは思う。 そして、かつての自分がどれだけ勿体無いことをしていたのかようやく理解した。 人と触れ合うことはこんなにも楽しいのだ。 他人に評価される楽しみも、別離の悲しみも、再会の喜びも味わった。 その感情の起伏こそが、生きているということをまざまざと感じさせてくれる。 これからはもっと積極的に他人とかかわっていこう。 そう決意するアリスの前途は、これまで以上に輝いていた。 後日談へ
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境界が曖昧になるとは職務怠慢である。 日々つらつらとレスを重ねる霖之助スレであるが、時たま異次元から誤って書き込まれたようなレスがつくことがある。 このような現象は一般的に誤爆と呼ばれるが、霖之助スレでは基本的に境界を操る妖怪である八雲紫の職務怠慢であるとされる。 このような現象が起きた際はあまり気にしないことが得策である。 くれぐれも全年齢対象スレに相応しくない書き込みが異次元から為されることがないよう八雲紫はオールタイムで職務に当たるべきである。 たまに裏と表の区別がつかないのが悪い
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動かない古道具屋、森近霖之助 動かない古道具屋、森近霖之助 コスト:(2)(U)(U) タイプ:クリーチャー - 人間・妖怪 P/T:2/3 キャラクター(森近霖之助) アーティファクトが場に出るたび、動かない古道具屋、森近霖之助の上に識別カウンターを1個置く。 (T)、動かない古道具屋、森近霖之助の上から識別カウンターを1個取り除く:占術1を行い、カードを1枚引く。 コメント 関連 第三弾『随喜信仰』
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前の話へ 次の話へ あらすじ 無縁塚で拾ったブルマのせいでギクシャクした霖之助と美鈴。 わだかまりが解消され、徐々に心惹かれあうようになる。 そんな時、美鈴はかつて自らが立てた誓いを思い出し、霖之助と距離を置く。 今日は美鈴にとって定期休暇の日。 休みともなれば朝早くから日が暮れるまで香霖堂に入り浸っていた美鈴だったが、今日は自室に閉じこもって出てこない。 いや、前回香霖堂から帰ってきてから今日で3週間、一度も香霖堂に足を運んだことはない。 門番の仕事をしているときも、なにやら沈んだ表情を浮かべてばかりだ。 そんな美鈴を見かねた咲夜がレミリアに相談したところ、 「あの店主に愛想でもつかしたんじゃないの? 大丈夫よ。あの子ならすぐ元気になるでしょ。 でもそうねぇ、半端な気持ちで仕事されてもなんだし、何日か休みをあげましょうか。 丸2~3日自分と向き合えば、気持ちに区切りがつくでしょう」 と、美鈴を気遣う言葉が出てきた。その言葉と、自らの意見を伝えに、美鈴の部屋へ赴く咲夜。 とにかく、美鈴に伝えよう。彼女が何かにつまづいたとき、倒れぬように支える者がそばにいることを。 カーテンを締め切った、薄暗い部屋の中。 美鈴は、この3週間何度も反芻していた自分の半生を、今再び思い浮かべていた。 レミリアに出会う前の美鈴は、今の美鈴からは想像もつかないほど荒んでいた。 物心ついたころには一人ぼっちで、親の顔など知らずに育った。 だから、自分が妖怪であることなど知らず、人の中に混じって生活していた時期もあった。 きっかけは手を差し伸べてくれた人間がいたこと。 ――良かったら一緒に暮らさないか―― それから何年かは幸せに暮らすことができた。 しかし、美鈴が妖怪である以上、徐々に寿命の違いという問題が顕在化する。 当時は人と妖怪が、今よりずっと険悪な時代だった。 周りの人間は、いつまで経っても年をとらぬ美鈴に冷たい視線をむける様になり、ついには武器を手にとって追い出そうとする。 何より美鈴を打ちのめしたのは、そんな人間たちの中に、かつて自分に手を差し伸べてくれた人の姿を見つけてしまったこと。 気付いたときには、痛む心だけを抱えて逃げ出していた。 そうして各地を転々としたが、本当の意味で受け入れられたことなど一度もなかった。 見た目は人間と変わらないせいか、親切にしてくれる人間もいるにはいたが、そんな人間達も美鈴が妖怪だと知ると手のひらを返したように態度を変えた。 見た目が人間と変わらないせいか、知能の低い妖怪たちには何度も襲い掛かられ、危うく食べられかけたことなど数え切れなかった。 ついには何も信じられなくなって、目に写るもの全てに襲い掛かるようになった。 人は殺して食い散らかし、妖怪は痛めつけた上で、気分次第で生かし、殺す。 自分から近寄って拒絶される恐怖に耐えられなくて、それを誤魔化すために狂気で心に蓋をした。 もし、物心がつくときまで親がそばにいれば。 もし、妖怪でも構わないと言ってくれる人間に出会っていれば。 もし、美鈴の事情を理解できるくらいの知能を持った、親切な妖怪と出会っていれば。 ほんの些細なきっかけさえあれば、本当は優しいこの少女が、畏怖の対象になどならなかったはずなのに。 そうして美鈴はレミリアに出会う。 実力の差を感じながら、むしろ死を望むほどの自棄と共に喧嘩を売り、叩きのめされた。 こんな人生をやっと終えることができる。だから早く殺せと思ったが、 「その目を変えてみたくなった。私に仕えなさい」 勝者であることを盾に、まだ生かされることになる。 仕え始めたころは、寝首をかくか、逃げ出すことしか考えていなかった。 しかし、辛辣な言葉と我侭な態度に隠された、わかりにくいが確かな優しさを感じ、また自分に屈託なく接するパチュリーや小悪魔、メイド妖精たちの姿に、徐々に心のとげが取れていく。 いつしか、生来の自分を取り戻した美鈴は、一つの誓いを立てる。 これからの生涯全てをかけて恩を返すと。 そして、その思いを風化させぬため、敬愛する主に面と向かって伝えたのだ。 それを聞いたレミリアは、とても満足そうに笑っていた。 なぜ、忘れてしまったのか。 今自分がこうしていられるのはレミリアのおかげだというのに。 あそこでレミリアに救い上げてもらわねば、生きる喜びも、暖かい他者との触れあいも忘れたまま、咲夜という尊敬する人に会うこともなく死んでいたというのに。 そんな自分に嫌気がさす。 だが、自己嫌悪はそれだけで終わってはくれない。 誓いを忘れた自分がショックで思わず帰ってきてしまったが、霖之助への想いがいまだに消えてくれないのだ。 3週間の間、必死に自分をなだめようとした。 レミリアに誓った以上、自分は門番の仕事を全うしなければならない。一度忘れてしまったからこそ、今度こそは必ず。 そう言い聞かせているのに、そうしなければいけないと頭ではわかっているのに、心がそれを受け入れない。 押さえ込もうとすればするほど強くなる。霖之助のそばにいたい。霖之助と一緒に生きていきたい。 レミリアに仕える、その他には何もいらなかったはずなのに、少し満たされると欲を出すあさましい自分に歯噛みする。 門番としての自分を捨てることはできない。 誓いを立てたからというだけではなく、今でも紅魔館に、レミリアに使えることが至上の喜びであることに変わりはないから。 しかし、霖之助への想いも、いつの間にかそれに拮抗するほどに強くなってしまった。 誓いを忘れていた自分。 思い出してなお、門番として生きることも、霖之助と共に生きることも捨てられない自分。 こんなあやふやな気持ちではどちらに対しても失礼だとわかっているのに、割り切れない自分。 そんな自分が、情けなくて、悔しくて、腹立たしくて、憎くてたまらない。 そんな時、部屋の戸をノックする音が聞こえた。 「美鈴?……もう起きてる?」 「咲夜さん!?」 訪ねてきたのは尊敬する上司、咲夜。 「ああ、起きてたのね。そのままでいいから聞いて頂戴」 「……はい」 何を言われるのか怖くてたまらない。 しかしそんなことは言えず、次の言葉を待つ。 「最近どうにも塞ぎこんでいるみたいだけど、……霖之助さんとなにかあったの?」 ぞわ、と全身が粟立つような感覚。 返事がないことを肯定と受け取り、咲夜は話を進める。 「……何があったかは聞かないわ。 ただ、最近のあなたがどうにも塞ぎこんでいるようだから心配だったの。 だから、気持ちが落ち着くまで門番の仕事は休んで良いわ。お嬢様もそうおっしゃっていたから」 返事はない。 「いい、美鈴? もし自分ではどうにもならないなら、私に相談して。 何もできないかもしれないけど、人に話すことで気持ちを整理できることもあるわ。 その位のことは、させて頂戴」 「わかり……ました……」 絞り出すような声だったが、確かに返事を受け取った。 今はこのくらいにしておこう。本当に辛いなら頼ってくれる。それくらい自惚れたっていいはずだ。 そうして、咲夜は仕事に戻っていった。 ベッドに腰掛けている美鈴。顔は俯き、肩が小さく震えている。 一文字にぎゅっ、と結ばれた唇。目からは大粒の涙が溢れ、膝の上で握り締めた手にポタポタと落ちていく。 自分は一体何をやっているのか。 大切な誓いを忘れて男にうつつを抜かし、挙句の果てに咲夜やレミリアにまで心配をかけた。 少し休んでいい。それはつまり今の自分では門番は勤まらないということだ。 勝手に忘れて、勝手に思い出して、勝手に悩んで。 その結果がこれか。 何が、誓いを守る、だ。 何が、霖之助と生きていきたい、だ。 自分の気持ちすら決められなくて、大切な人たちに迷惑をかけたくせに。 こんな自分は、紅魔館にも、香霖堂にも、いてはいけない。 眩しいくらいに輝いているあの人たちに、こんな自分は近寄ることすら許されない。 その夜、返事がないことを訝しんだ咲夜が美鈴の部屋に入ると、テーブルの上に一通の書置きだけが残されていた。 前の話へ 次の話へ
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前の話へ あらすじ 裁縫を通じて惹かれあうアリスと霖之助。 それに納得がいかない魔理沙。三角関係がこじれにこじれた。 一足先に霖之助が立ち直り、アリスと魔理沙が続いた。 「……」 最近ここまでひとつのことを考え続けたことがあっただろうか。 自分に好意を寄せる2人の少女、アリスと魔理沙。 魔理沙とは彼女が物心ついたときからの付き合いだ。 人前では常に明るく振舞い、陰で血のにじむような努力を続ける少女。 自惚れかも知れないが、彼女の支えになってきた自信はあるし、そのことを誇りに思う。 アリスとはつい最近一気に距離が縮まった。 皮肉屋で素直じゃないが、思いやりのある優しい少女。 ここ1ヶ月ほどの、彼女がいる生活はとても充実していた。 どちらかが選ばれ、どちらかは選ばれない。 残酷なようだが、2人とも幸せにするなんて言っても彼女たちは納得しないし、そんな都合の良いことは口が裂けてもいえない。 審判を下すのは自分だ。理屈ではなく、2人のうちどちらと生きていきたいのか、自らの感情を問う。 そして、その答えはすでに出ていた。 「入るわよ」 「じゃまするぜ」 件の2人が店に訪れる。 「用件はもうわかっているよな?」 「はっきり聞かせて頂戴。あなたの口からね」 「……ああ」 2人の顔を交互に見つめる。 もう一度だけ、目を閉じて心に浮かぶ少女の顔を確認する。 心臓はこれ以上ないほど早鐘を打ち、手のひらは汗がじっとりにじんでいる。 だが、逃げ出すわけにはいかない。 「……魔理沙」 2人の反応は異なる。 魔理沙はさらに顔を険しくし、アリスは唇をかみ締め、顔をそらす。 ああ、おそらく2人はわかっている。次に続く言葉を。 「すまない。僕は君を選ぶことはできなかった」 目を閉じ、息を吐く。 ―――ああ、やはりそうか――― 覚悟はしていた。予想もしていた。 なのに、面と向かって言われると想像以上に堪える。いっそ崩れ落ちてしまいたいくらいだ。 それでも、今度ばかりは取り乱すわけにはいかない。 「はあ~あ、やっぱりな」 「やはりわかっていたんだね」 「まあな。何歳からの付き合いだと思ってんだ? 香霖の考えなんてお見通しだぜ」 「……」 「なに辛気臭い顔してんだよ全く。あれだけ女っ気がなかった香霖がこんな良い女に言い寄られるなんて金輪際ないぜ。 それも2人同時にだ。もっと喜べよ」 「魔理沙……」 今度はアリス。 なんともいえない顔をしている彼女にも声をかける。 「お前も同じだよアリス。たった今想いが通じたんじゃないか。笑わないなんてそれこそ私に対して失礼だぜ」 自分自身よくこんなに口が回ると思う。 多分、ごまかしているだけなんだろうが。 「さて、そうと決まればこんなとこに用はないな。若い2人に任せて退散させてもらうぜ」 「……ああ」 「じゃあな香霖。これでアリス泣かしたら許さないぜ」 さあ、一刻も早く外へ出よう。取り繕うのはもう限界だ。 そして店には2人が残る。 しばらく沈黙が続き、それをアリスが破った。 「霖之助さん」 「なんだい?」 「これでよかったの? 本当に私でいいの?」 その表情からは喜びを見て取ることはできない。 魔理沙のことが気になっているのだろう。 「ああ。いつものように理屈でどうのこうのとは考えなかった。 僕が店にいて、その傍らにいて欲しいのが誰か。それを考えたとき、真っ先に浮かんだのが君だったんだ」 「……そう」 そうしてまた続く沈黙。 「ねえ」 「うん?」 「今日は帰ることにするわ。まだ気持ちの整理ができなくて。 あ、嬉しくないわけじゃないの。でも、まだ素直に喜べないから……」 「ああ。急ぐ必要はないさ」 そうして店を出ようとするアリスの背中に声をかける。 「そうだ、一つ伝えないといけないことがあった。 次に君が来たときには、是非とも渡したいものがあるんだ。 ……待っているよ」 香霖堂を飛び出した魔理沙は、とにかくスピードを上げて箒を飛ばしていた。 歯はきつく食いしばられ、目は前を見ていない。 山から一本だけ突き出た大木。それに向かって突っ込んでいくが、顔を伏せている魔理沙は気付かない。 あわや激突かと思われた瞬間、魔理沙は目の前に開かれたスキマに飛び込んでいった。 気がつけば、布団の中にいた。 見覚えのない部屋。一体ここはどこだろうと思った瞬間、声をかけられる。 「危ないわね全く。自殺なんかされたら霖之助さんが悲しむわよ」 「……お前か、紫」 「ええ、久しぶりね」 「……見てやがったのか」 「もちろん、一部始終をね」 「それで? 惨めな私をあざ笑いに連れてきたってのか?」 「命の恩人に失礼なことね。それに、私にはあなたを笑うことはできないわよ」 「……」 その言葉を聴いてなんとなく察する。 「で、その大量のつまみと酒はなんだ?」 「わかってるんでしょ? こういうときは呑んで呑んで呑みまくるものよ」 「……まあいいや。どうせ呑むつもりだったしな。ここか家かが違うだけだ」 「そうそう。じゃあ乾杯ね。」 それから数十分後。 「随分呑んだわねえ」 「なあ~にまだまだこれからよお~」 2人で次々瓶を開け、気付けばすでにかなりの量を飲んでいた。 そろそろ溜め込んだものを吐き出させようと、紫は魔理沙の本心を尋ねる。 「で、どうなの? まさかすっぱり諦めきれたわけじゃないんでしょ? 言いたいことがあるなら吐き出してしまいなさいな」 少し目を左右にやる魔理沙。酔いはやや醒めたらしく、迷いつつもぽつぽつと話し始めた。 「最初はさ……あいつらが憎くて仕方なかったんだ。 私のいない間にこそこそしやがって……って。 でも段々、自分に対する後悔のほうが大きくなってくのがわかったんだ。 何でもっと積極的に行かなかったんだろう。 貰い手がなかったら頼むなんて軽口でごまかして、そんなんで香霖が気付いてくれるわけないって知ってたのに。 まだ私は大人になってないから、もっと大人にならないと香霖とは釣り合わないからって、 本気になるときを『今』から『いつか』にすり替えてた。 そんなことをしているうちに、『今』本気になってるアリスが香霖を動かし始めたんだ。 気がついた時にはもう手遅れで、香霖はすっかり私の方を向いてなかった」 その言葉に思うところはあったが、今はとにかく聞き手に徹する。 「なんで『いつか』なんて考えてたのかなあ。チャンスなんかいくらでもあったはずなのに。 やりたいこともいっぱいあったんだぜ。 唐突に『愛してるぜ』とか言って香霖を赤面させたり、 新しい料理を覚えて『おいしいよ』って言わせたり。 祭に2人で手をつないで出かけたり、 花見や月見でのんびり酒を酌み交わしたりもしたかった。 同じ布団で寝て、香霖の腕を枕にして。寒いからぴったりくっついて『これで寒くないぜ』ってささやいたり。 つい何ヶ月か前まで、手を伸ばせば届いたかも知れなかったのに、今じゃもう届かないんだ。 どんなに泣き喚いても、力づくで奪い取っても、それは私が欲しかった香霖じゃない。 ……私を一番愛してくれる香霖じゃないんだ……」 そこまで言うと、魔理沙は肩を震わせて俯いてしまった。 自分もこの子と同じだ。 その気持ちは手に取るようによくわかる。 だから、魔理沙の頭を優しく胸に抱いた。 「泣いたっていいのよ。あなたはまだ若いんだから。 こういうときは、泣いて泣いて全部吐き出しなさい。 そうして成長していけばいいの」 そう言いながら魔理沙の頭を撫でる。 「うっ……ぐっ……うわああああああああああああああ!」 いちど決壊してしまえば、もうあとは吐き出すだけ。 爪のあとが残るほど強く紫を抱きしめ、魔理沙はいつまでも泣きじゃくっていた。 2日が経過した。 しかし、まだアリスはやってこない。 (もう少し時間がかかるのかもな……) そんなことを考えつつ、霖之助は先ほど届いた文文。新聞の号外を開く。 その目に飛び込んできたのはこんな記事だった。 『熱愛発覚! 香霖堂店主森近霖之助と、七色の人形遣いアリス=マーガトロイド!』 同じころ、アリスもその記事を目にしていた。 つい先ほど、この新聞を作った本人、射命丸文が直接渡しに来たのだ。 「この号外はあなたが見なくちゃダメなんです! 今回情報をくれた人から頼まれたんですから!」 何が言いたいのか良くわからなかったが、どの道今は何も手につかない。 まあ気を紛らわすくらいのことはできるだろう。 そう思って新聞を開いた瞬間、アリスの頭は一気に覚醒した。 新聞の内容を要約するとこうだ。 『いつものようにネタを探していたところ、急遽取材の申し込みがあった。 渡りに船とその人物にあえば、なにやら人知れず咲いた恋があったとのこと。 しかもそれが有名な魔法の森に住む2人、森近霖之助とアリス=マーガトロイドと聞けば、 これは記事にせざるを得ないと判断した』 その後は2人の馴れ初めについて記されている。 情報提供者の名前を見ると、こう書いてあった。 『霧雨 魔理沙』 「……ここまでお見通しってわけね」 どこまでも世話焼きなやつだ。 自分が失恋した直後だというのに、アリスが魔理沙のことを気にして動けなくなることまで考えていたのか。 ここまでされては、自分も腐っているわけにはいかない。 人の恋路を勝手にばらすのは不届き千万だが、背中を押されたのも事実だ。 この記事を見た読者が押し寄せる前に、霖之助の下へ。 バタン! 勢いよく戸が開く音を聞きつけて目をやると、ここ2日待ち焦がれた少女の姿があった。 「……見た?」 何を、とは聞かない。 「ああ。全くあの子らしいな」 「そうね。私もようやく覚悟が決まったわ」 2人で笑いあう。どちらかといえば苦笑に近い笑みだったが。 「それでは僕の思いを伝える前に、この前話したものを渡そう」 そう言って奥に引っ込む霖之助。 戻ってきた霖之助の手に乗せられていたのは紙の包み。 「開けてごらん」 言われるがままに包みを開く。 出てきたのは、非常に細かな刺繍が施され、生地も糸も高級な品を使用した『振袖』であった。 「これを……私に?」 「ああ。……それは僕の、母の形見なんだよ」 「え?」 目を丸くするアリスを眺めつつ、話を続ける。 「僕が人間と妖怪のハーフということは知っているだろう? 人間だったのは母のほうでね。それなりの良家の一人娘だったらしい。 父は母が僕を身ごもったあと、親族たちに追われ、今は行方知れずだ。 母は妖怪の子を宿したために家を勘当されたそうなんだが、そのとき母親、 つまり僕の祖母からこの振袖を渡されたそうだ。 祖母も曾祖母から譲り受けたもので、母が嫁に行くときに着せたかったそうだが、 今話したような事情でそれも適わなくなってしまった。 だからせめて、まだ見ぬ孫が女なら孫に、男ならその伴侶となる女性に受け継いで欲しい、とね。 この話を聞いたのは母が他界する直前だった。もう何十年も前の話さ」 「……そんな大事な物を私がもらうわけには「アリス」」 軟らかくアリスの発言をさえぎる霖之助。 「僕と君が、初めて和服について語った時の内容は、まだ覚えているかい?」 当然忘れてなどいない。 確か、和服は着る人間が代わっても大丈夫なように厳密な採寸をしない。 そしてその理由は 「……あ」 大事な着物を、子へ、孫へ。 何年も何年も大事にしてきた着物だからこそ、それを授けることによって、 相手に愛情の深さを伝えるのだ。 「……」 言葉もないアリスに、霖之助が声をかける。 「その着物以上に大切なものは、僕の店にもない。値打ちの問題ではなく、ね。 これが僕の答えだ。 ……受け取ってくれるかい?」 ともすればあふれそうになる涙を必死に抑える。 今は泣くときじゃない。笑うときだ。 そうしてアリスは霖之助に応える。 「はいっ!」 その顔は、見るもの全てを魅了する最高の笑顔だった。 魔法の森の入り口に存在する店、香霖堂。 そこを訪れた客に、店の名物は何かと問えば、皆が口をそろえてこう言った。 それは、いつ見ても仲睦まじい銀髪と金髪の夫婦である、と 了 前の話へ おまけ
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《森近 霖之助》 No.1031 Character <第十二弾> GRAZE(1)/NODE(2)/COST(1) 種族:人間/妖怪 (常時)(1)(S): 〔あなたの手札にあるコマンドカード1枚〕を破棄しても良い。破棄した場合、〔あなたのデッキ〕を全て見て、コマンドカード1枚を抜き出し、相手プレイヤーに見せてから手札に加えても良い。その後、デッキをシャッフルする。 攻撃力(3)/耐久力(2) 「君達は大きな勘違いをしている様だね」 Illustration:鶴亀 コメント 非常に軽くなって帰って来た香霖堂店主。 起動効果は所謂手札のコマンドカードを別のコマンドカードに入れ替えるという物。手札で腐っているマナの生成等を強引な取引等に交換できる。 また、この効果はコストが1掛かるものの、捨てるコマンドカードの対象に制限が無い。よって銀ナイフと組み合わせれば毎ターン好きなカードを手札に加える事が出来るのだ。このカードが低ノードなのを活かして序盤からマナの生成で加速するのも良し。強引な取引でさらに手札を増やしても良し。是非曲直庁の威令や陰謀論、緑眼のジェラシーなどを手札に溜め込んで相手の行動を次々妨害するのも良し。手札にまだ無い銀ナイフを加えても良し。状況に合ったコマンドカードを選んでいこう。 逆にこのカードを相手にする場合、放っておくとカウンターを大量に握られる等して手が付けられなくなる場合もあるので優先的に除去して行きたい所。 地味にグレイズ1の3/2と平均以上の戦闘力まで持っている。目ぼしいコマンドカードがデッキから無くなった場合でも十分戦列に並ぶ事が出来るだろう。人間/妖怪と、サポートを受けやすい種族であることも好材料といえる。 相手の強引な取引に干渉してハートフェルトファンシー、エンパシーなどにはラストリモート、ワンショットされそうなときに雲外蒼天などが後出しできるため、(自動β)を持つコマンドカードとの相性が良い。 関連 第十二弾 スターターデッキ風 森近 霖之助/1弾 森近 霖之助/7弾